
皆様こんばんは。「THE・今夜も音楽三昧」の時間がやってまいりました。今週もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、明日から3連休ですね。最終日には海の日も待っています。というわけで、今週は、「海」のお話です。タイトルのまんまですね。それでは、どうぞ。
最後の大勝負から生まれた「海」
この「海」というのは、それ自体である曲のタイトルなのですが、この「海」はある「大勝負」から生まれた楽曲でした。
時は遡って1984年。あるバンドが佳境を迎えていました。そのバンドの名前は「ジューシィ・フルーツ」。当時は珍しかったテクノビートを駆使したサウンドと、ボーカル・イリアのハイトーンボイスで「ジェニーはご機嫌ななめ」などのヒット曲を生み出してきたバンドです。しかし、この頃になると彼女たちに追随してテクノビートに手を出すミュージシャンが複数現れ、さらに彼女達よりも高い次元でヒット曲を生み出していったのです。結果、彼女たちは佳境に立たされることになったのでした。そしてこの年、彼女たちは進退を懸け、同年末の有線大賞入賞を目指します。
それにあたり、彼女たちはあるミュージシャンに楽曲提供を依頼します。その名は桑田佳祐。ご存じ、日本のモンスターバンド・サザンオールスターズのリーダーですが、その前年に提供を受けた「そんなヒロシに騙されて」が、同時期に活躍していた歌手・高田みづえに再カバーされてリバイバルヒットを記録していた折で、絶好の依頼先でもありました。かくして彼女たちは2曲の提供を受けます。そのうちの1曲が、今回ご紹介する「海」でした。
移り気なアナタに抱かれて痺れた ほんのちょっとだけで
こんな気持ちになるなんて 悪い人だと思うけど
Sha-la-la 夢のように暮らしたものさ 心から恋してる
「海」(1984年、作詞:桑田佳祐、歌唱:ジューシィ・フルーツ)
これまでのジューシィ・フルーツのイメージを根底から覆すバラード、それもさほど強気ではない女性を視点人物としたロマンスも彼女たちのこれまでの作品にはあまりなかった構図です。これによって新境地を開拓してほしいというメッセージのようにも取れます。
これを以て有線大賞に勝負をかけたジューシィ・フルーツでしたが、同曲発売のわずか数週間後に思わぬところから刺客が現れます。なんと1970年代に日本で歌手活動を果たした後、他のアジア各国で研鑽を積んでいたアジア最強歌姫・鄧麗君(テレサ・テン)が日本で本格的な音楽活動を再開したのです。そして発売された「つぐない」は空前絶後の大ヒット、有線大賞もこの歌に掻っ攫われてしまったのです。
ジューシィ・フルーツはこれにより自身の楽曲が通用しない時代の到来を悟ったか、同年末での解散を表明します。しかし、最後の一年にリリースした「海」はその頃、思わぬところで話題を呼んでいたのでした…

ジューシィ・フルーツならではのテクノナンバー。CDではこちらをA面とし、「海」はB面だった
Uターンからの大ヒット
有線大賞をテレサ・テンに搔っ攫われ、解散と相成ったジューシィ・フルーツ。しかし、「海」という楽曲だけは意外なところで話題騒然となっていました。というのも、この「海」、楽曲提供した桑田のファンからの支持がかなり高かったのです。
その実、サザンオールスターズの楽曲は多数が視点人物を男性としており、女性を視点人物とした楽曲はかなり少なかったのです。加えて、イリアの歌声にマッチするように施されていたテクノ要素もバラード曲との融合はさほど多くなく、そういった意味でも新鮮だったのです。
こうした背景もあり、同年夏のアルバム「人気者で行こう」にて、「海」のセルフカバーがB面の1曲目に収録されたのでした。
海辺へ通う道 真夏の出来事 ほんのちょっとだけで
こんな気持ちになるなんて 他の誰かを愛してる
Sha-la-la 見つめ合ってその気にさせて 今頃はどこにいる?
「海」(1984年、作詞:桑田佳祐、歌唱:サザンオールスターズ)
このアルバムは、シングル曲として事前にシングルカットされていた「ミス・ブランニュー・デイ」のヒットに加え、「夕方Hold on me」や「よどみ萎え、枯れて舞え」などといった他の収録曲の完成度も高く、同年の年間アルバムランキングで3位につける大ヒットとなりました。「海」は楽曲提供からセルフカバーへのUターンによって、再び脚光を浴びたのです。

「海」で歌われている海の景色は、「荒波!激情!!」というよりは、こんな穏やかな姿が浮かぶ
そして、6年越しに…
しかし、それだけでは終わらなかったのが「海」の凄いところ。
「人気者で行こう」の発売から6年後の1990年5月、「海」はまたも予想外なところから再び話題となります。なんとアイドル歌謡の関係者がこの歌に注目し始め、同月中に2回もカバーされたのです。
それぞれ、奔放なキャラクターでバラエティでも活躍した芳本美代子と、ドラマ「花のあすか組!」で注目を集めた本田理沙によるもので、特に前者は「海」を作られてからの6年間で初めてシングルA面で抜擢したという点で画期的でした。
時折名前を読んでみた つれないこの気持ち
言葉じゃ言えない「好きよ」 All I need is you…
「海」(1990年、作詞:桑田佳祐、歌唱:芳本美代子)
かくして、最終的には音楽ジャンルの壁さえも越えてしまった「海」は、今でも切ないサマーソングの一角の座を守り続けています。夕暮れ・夜明けの生みの情景が見える楽曲で、どのバージョンも聞きごたえは抜群の一曲です。

キラキラとした仕上がりと相成った。テンポも若干上がっており、三者三様の世界観だ
おわりに
というわけで、本日は「海」に関するお話でした。1個の曲を追いかけるという形式はおそらくこのコラムでは初だったと思いますが、いかがでしたでしょうか?
実際に楽曲としての完成度はものすごく高い1曲で、過去にはラブソングメーカーとして絶大な支持を誇るaikoがテレビ番組で絶賛していたなんて逸話もあります。バラードではあるものの暗くなりすぎず、心地よい温かみを感じる作品です。
それでは、また来週もこの時間にお会いしましょう~。
作者よりお知らせ
当コラムでは、内容向上などの参考とするため、読者アンケートを行っております。ぜひとも感想をおきかせいただければと思っておりますので、以下のURLより回答をよろしくお願いいたします。所要時間は1~2分程度です。
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このコラムで紹介した楽曲のプレイリストを用意しました。LINE MUSICで聴くことができます。以下のURLからアクセスしてください。次回以降の紹介曲についても順次公開していきますのでよろしくお願いします。
https://music.line.me/webapp/playlist/upi7nLrdtfvhxjzl_GXu9zYQaUd_BLXPXHlL?myAlbumIf=true