
皆様こんにちは。「THE・今夜も音楽三昧」の時間がやってまいりました。
今週のアタマには『粋』の新刊・74号が発行されました。今回はいろいろと挑戦的…かもしれません。ぜひ一度、手に取っていただければと思います。同時に、この「粋Web」も一層の活性化を図っていきたい所存ですので、何卒、よろしくお願いいたします。
今回の「音楽三昧」は、前回(#22)の続きで、第2世代以降のOMEGA TRIBEに関するお話です。
跳ね物冴えわたる第2世代
ブラジル出身のカルロス・トシキを新ボーカルに迎え、1986年に再始動を迎えたOMEGA TRIBEは、同年5月1日の「君は1000%」でデビューを飾ります。かの超有名学園ドラマの続編を少なからず意識して作られたというドラマ「新・熱中時代宣言」の主題歌タイアップが付くなど、華々しい旅立ちでした。
君は微笑だけで 海辺のヴィラ 夏に変えてく
僕のイニシャルついたシャツに着換え 何故 走りだすの?
「君は1000%」(1986年、作詞:有川正沙子、歌唱:1986 OMEGA TRIBE)
タイトルの「1000%」は、プロデューサーの藤田浩一がカルロスに「日本語とそっちの言葉(ポルトガル語)で似た言葉はあるか?」と尋ねたときに、カルロスが「『セン』です。日本語では『1000』ですが、こっちの言葉では100を『セン(cem)』って発音します」と答えたところから生まれた言葉なんだとか。他にも同年に地球に最接近したハレー彗星を感じさせるフレーズがあるなど、歌詞がなかなか味わい深い作品になっています。
君は1000% 輝くハレーの雫を その髪に散りばめ
If you give me your heart 陽射しも溶けるフォトグラフ
ここだけが Brand-New Summer
「君は1000%」 (1986年、作詞:有川正沙子、歌唱:1986 OMEGA TRIBE)
その後、1987年になっても彼らは「1986」の屋号で活動を続けますが、翌1988年に多少のメンバーチェンジが起こり、それを機に屋号が「カルロス・トシキ&OMEGA TRIBE」に変更となります。そして、同年3月9日に新屋号最初の楽曲「Down Town Mystery」が発売されます。夜の都会が似合う、疾駆間溢れるハイテンポなナンバーです。
Down Town Mystery (Lonely Tune!)
夜より長い恋は嫌いよ、と (Just say I love you) 甘い声
Midnight Misty Lie (Fall in Love) 冷たいシャツの柔らかなカーブが
触れた指先で息を止めたね… Whisperin’ “Hold me,My sweet heart” …
「Down Town Mystery」 (1988年、作詞:売野雅勇、歌唱:カルロス・トシキ&OMEGA TRIBE)
さて、この時期のOMEGA TRIBEにはある傾向が見られます。いわゆる「ハネモノ」と呼ばれるサウンドです。第1世代ではあまり見られなかったのですが、裏拍にリードメロディを載せた楽曲が結構多く出ています。それによって、比較的テンポの遅い楽曲でもリズミカルに楽しめるような工夫ができており、第2世代ならではのカラーがより強く出ているポイントといえるでしょう。
こうして、ハネモノでつかみを得た第2世代のOMEGA TRIBEは、次なるヒット作を世に送り出すに至ります。

沿うように作られていたことも見逃せないポイント。それに伴い疾走感も増していった
トレンディブームの火付け役
「Down Town Mystery」が世に出てから数か月後、フジテレビの「抱きしめたい!」というドラマが、放送開始前から密かに話題を集めていました。当時多数の人気作でヒットを連発していた浅野温子と浅野ゆう子の「同姓W主演」に加え、「熱中時代」(日本テレビ系列)などのドラマで名を馳せた松原敏春の単独脚本作でもあったのです。そして、OMEGA TRIBEはこのドラマの主題歌を任されます。
夕映え映すビルの上空(そら)に 消え残るPacific Blue
君も都会(まち)も同じ色だね 溜め息で揺れる…
「アクアマリンのままでいて」 (1988年、作詞:売野雅勇、歌唱:カルロス・トシキ&OMEGA TRIBE)
かくして発売されたのが「アクアマリンのままでいて」です。先述したハネモノのリズムは残しつつ、主旋律は基本的に表拍に載せるなど、第1世代への回帰をも感じさせる仕上がりです。イントロ+サビ・Aメロ+Bメロ・アウトロが別々の調で設定されている、変化に富んだ曲調も魅力的です。
そして、この曲を主題歌としたドラマ「抱きしめたい!」ですが、平均視聴率は10%台後半とそこそこだったものの、若者世代の間では一大ムーブメントとなり、以降、この作品に類似した系統のドラマは「トレンディドラマ」と呼ばれ、90年代にかけて黄金期を迎えることとなります。「アクアマリンの~」もその波に乗って大ヒットを記録し、第2世代を代表する作品の1つになりました。2007年に「抱きしめたい!」がリメイクされた際には、「Time goes by」などでおなじみのEvery Little Thingが「アクアマリンの~」をリメイクして主題歌に起用されています。

比喩されるほどのものだったという。嗜好が多様化した現代ではなかなか考えにくい話だが…
忘れじの第3世代
「アクアマリンの~」のあと、カルロス・トシキ&OMEGA TRIBEは数枚のアルバムを出し、1991年に解散を表明します(ちなみに、最後のシングル「時はかげろう」はあのユーミンが手掛けた作品です)。これにてOMEGA TRIBEの歴史は終わった…と思われがちなのですが、実はわずかながら「第3世代」も存在しました。
第3世代の名は「BRAND-NEW OMEGA TRIBE」。ボーカルはソロでアニメ版「機動戦士ガンダム」の主題歌を歌唱したこともある新井正人が入り、1993年から1994年にかけておよそ1年の間に10曲を世に送り出しています。
その中から今回ご紹介するのは、「好きだから言えなかった」。1枚目のシングル「愛さなくていいから」のB面曲ですが、作詞を「カルロス・トシキ」時代の売野雅勇が務め、「1986」時代の特徴であるハネモノを自然に織り込みつつも「杉山」時代中期・特に「サイレンスがいっぱい」の頃のしっぽりバラード路線の作品として違和感なく仕上げられており、ある種、OMEGA TRIBEの集大成というべき楽曲でした。
あの頃は急ぎすぎて 出せない答え ずっと探してた
好きだから「好き」と言えなかった
その笑顔 壊れそうだから…
「好きだから言えなかった」(1993年、作詞:売野雅勇、歌唱:BRAND-NEW OMEGA TRIBE)

いえる。敢えて大衆ウケを狙っていないともとれる曲調は、寧ろテレビでは武器となったのだろう
おわりに
というわけで、前回から二度にわたって、「最後の仲間」ことOMEGA TRIBEのお話でした。現在でサマー・ソングというと40年以上に渡り大衆人気トップをひた走るサザンオールスターズの存在が大きいですが、他のサマーシンガーとは一線を画する都会志向で一時代を築いたOMEGA TRIBEの功績はかなり大きいものだったと言ってよいのではないでしょうか?
今後も暑い日々が続きます。そんな時には是非、OMEGA TRIBEの音楽を楽しんでみてはいかがでしょうか?
それでは、また来週もこの時間にお会いしましょう〜。
作者よりお知らせ
当コラムでは、内容向上などの参考とするため、読者アンケートを行っております。ぜひとも感想をおきかせいただければと思っておりますので、以下のURLより回答をよろしくお願いいたします。所要時間は1~2分程度です。
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