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コラム

【THE・今夜も音楽三昧】#19「時間を切り取る夜」

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皆様こんばんは。「THE・今夜も音楽三昧」の時間がやってまいりました。今週もよろしくお願いいたします。

さて、本日は6月10日、「時の記念日」でございます。西暦671年のこの日に、時の天皇であった天智天皇(即位前の「中大兄皇子」の名義の方が有名かもしれませんね)が漏刻(水時計)を解禁したことに期限があるといわれています。あれから1400年弱、今や時計は単なる報時昨日に限らず、インテリアやファッションの一部に昇格し、現代人の生活に馴染みつつあります。

そこで今回は、「時・一瞬の切り取り」をテーマにいくつか選曲してみました。歌の力は瞬間的な出来事をどう彩ってくれるのでしょうか?

それでは、まいりましょう。ぜひぜひ、今週も最後までお読みくださいね。

君は、その一瞬の煌めきを見たか

いくつもの Teenage Dream 流されてきたけど

瞳の中、君はあの虹をみたかい?

「虹をみたかい」(1989年、作詞・歌唱:渡辺美里)

本日最初にお送りしますのは、平成元年の楽曲「虹をみたかい」。「My revolution」や「夏が来た!」のヒットで知られる歌手、渡辺美里の楽曲です。1980年にアメリカのロックバンド「クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル」が歌った楽曲「雨をみたかい」へのオマージュとして作られた楽曲で、サビのコード進行はこの楽曲の旋律を参考に作られたともされています。

この歌のテーマは、若者世代の情熱的な恋。ロック志向の強いサウンドに載せて、想いに身を焦がすティーンエイジャーの心を比喩を交えながら綴っています。その中で「虹」は青春の輝きを象徴する存在として登場しており、詞の世界観に彩りを加える貴重なパーツとなっています。同時に、その儚さが青春時代の速さを象徴させ、感情全開のロックナンバーにちょっとした切なさを与える巧みなアクセントになっているのです。

デートのあとは会う前より 何故淋しいの?

月曜日には もうウィークエンドが恋しいよ…Breakin’ now! Breakin’ now!

Do you wanna Dance? Do you wanna Kiss? 土曜は Revolution oh…

最後のDance 最初のKiss Have you ever seen the Rainbow? oh oh oh…

「虹をみたかい」(1989年、作詞・歌唱:渡辺美里)
一度だけ、学生時代に教室の窓から虹が見えたことがある。写真はないし、当時情熱的な恋を
していたわけでもないが、その日の空が文字通り吸い込まれそうに青かったことだけは覚えている

大学4年生、せつない回想

私の誕生日に 22本のローソクをたて

「ひとつひとつが みんな君の人生だね」って言って

17本目からは一緒に火をつけたのが 昨日のことのように…

「二十二歳の別れ」(1975年、作詞:伊勢正三、歌唱:風)

続いてお送りする楽曲は、風の「二十二歳の別れ」。ジャパニーズフォークの全盛期と言ってよかった1975年に発売された楽曲で、ギター主体の美しい旋律から支持が高く、フォークのスタンダードナンバーの1つになっています。 前半と後半で使用楽器やパーカッションのリズムに変化をつけることで盛り上がりを固定するという典型的な進行パターンではあるものの、ハネモノのリズム感によって独自の味が出ていることも特徴的です。

先ほどの「虹をみたかい」は身を焦がすような恋の瞬間を切り取った歌でしたが、こちらはタイトルの通り、22歳の時の別れの瞬間を切り取った楽曲です。「私」が「あなた」に別れを告げようとしている日の当日の心境を1番で歌った後、2番で誕生日の思い出を回想、そして最後の大サビでこれから「あなた」に伝えたいことの一端が示されて終わります。それぞれの番で切り取られている時間軸に若干の差異があり、それらの繋げ方がうまいのがミソです。22歳というと大学4年生ですが、今の大学4年生ってそういう切ない経験をするものなんでしょうかね?そういったところにも思いを馳せたくなるナンバーとなっています。

ところで、最初に紹介した歌詞は2番の冒頭部分に出てくるのですが、どことなく粋な返しですよね。気障と取る人もいるかもしれませんが…

ひとつだけこんな私のわがまま聞いてくれるなら

あなたは あなたのままで 変らずにいて下さい そのままで……

「二十二歳の別れ」(1975年、作詞:伊勢正三、歌唱:風)
フォークミュージックは、今と昔の大学生の生き様の違いを強烈に教えてくれる。
どちらが良いという話ではなく、そういう時代もあったのだと覚えておきたいものだ

斜に構えて見据える、過去と現在

そう何回でも言ってやるよ 君の中で踊る黒い物 嗚呼 あたかも隠したつもりで

平然としてる顔が嫌で どうでもいいテレビのニュースに踊らされる

架空の毎日 ああ、そんなクソみたいな夜は キラーボールと一緒に回るよ

「キラーボール」(2013年、作詞:MC.K、歌唱:ゲスの極み乙女。)

続いて紹介するのは「キラーボール」という楽曲。「私以外私じゃないの」などで知られるバンド・ゲスの極み乙女。の比較的初期の楽曲です。 当時の彼らの音楽に特徴的であった台詞を畳みかけるように歌詞を紡ぐAメロと、どこか世間をひねくれてみているような歌詞を楽しめます。

この歌は時間のキリトリが結構目まぐるしく移動するという特徴があります。この後の未来に起こることに予測して毒づいたと思えば、サビで「たった今わかったんだ」といって現在の気づきに言及し、さらに2番に入ると回想シーンに入り、それを終えるとまた未来演算…と、様々な時間軸から語り手の中の心情を窺い知ることができます。こうした立体的な構造はその後の楽曲づくりにも生かされており、ファンの考察心を巧妙に煽っていくのです。

どうせまた嘘ついて無駄に泣いたりして

また明日も今日のようにくたびれた世界で

たった今わかったんだ キラーボールが回る最中に

踊ることをやめなければ誰も傷付かないんだって

「キラーボール」(2013年、作詞:MC.K、歌唱:ゲスの極み乙女。)
この歌の情景を時間帯で表せば夜だが、どちらかというとネオンがギラギラと輝く都会の夜よりも
どこかアンダーグラウンドな装いを纏う。そういう所にも、この歌の「斜の美学」が感じ取れる

思い出を諦めないで

あんなにナイーブなひとにはそれまで会ったことなかった 私

「きたないシャツ着たやつだ」と、兄貴は電話さえ取り次がないの

工場裏の夕陽の空地 二人は愛を誓い合った

「DOWNTOWN BOY」(1984年、作詞・歌唱:松任谷由実)

本日最後に紹介する楽曲は、ユーミンの「DOWNTOWN BOY」。1984年のアルバム「ノーサイド」の収録曲ですが、1984年、1998年、2018年と3度にわたってCMのタイアップが付くなど、根強い人気を誇っている楽曲です。前年にビリー・ジョエルが発売し、身分違いの二人の出会いを歌った「UPTOWN GIRL」へのオマージュ作となっています。

この歌のポイントは、シーンのカットの幅広さにあります。まず、冒頭から2番のAメロまではモノローグの形式をとっており、1番Aメロ、Bメロ、サビ、そして2番のAメロと、それぞれ違うシーンを描写しています。そして、2番のBメロから切り取られる時間軸が現代に飛ぶのですが、そのキーとなるフレーズがこちら。

宝島だった秘密の空き地 今ではビルが建ってしまった

「DOWNTOWN BOY」(1984年、作詞・歌唱:松任谷由実)

この「空き地」というのは、1番のBメロ(冒頭引用を参照)で二人が愛を誓った場所として出てくる場所。その思い出がビルによってかき消されることへの切なさを感じさせるフレーズと共に現代に視点が戻されるのです。このあたりの描写は流石ニューミュージックの女帝といったところでしょう。そこからは現在の視点から「DOWNTOWN BOY」に対して思うことが連綿と歌われていきます。一貫してピアノを主軸とした類似フレーズが繰り返されるサウンドと相まって、この歌は聞く者のそれぞれの心に秘める叶わなかった恋模様を、時間のキリトリと共に思い出させるのです。

勝気な瞳の Down Town Boy 未来を夢見ていた

どこかで恋をしてるなら 今度はあきらめないでね

本当は淋しい Down Town Boy まぶたの奥に立ってる

あなたの思い出つれて 今日もビルに夕陽落ちる

「DOWNTOWN BOY」(1984年、作詞・歌唱:松任谷由実)
今や名古屋は開発が進み多数のビルが立ち並ぶメガロポリスを形成している。その過程で
貫かれていった「秘密の空き地」も、相当な数があるのかもしれない…

おわりに

というわけで、今日は「時間のキリトリ方」に着目して4曲ご紹介いたしました。

過去の出来事を歌うというのは方角に限らず音楽の普遍的なテーマですよね。だからこそ、その手腕や方法、視点の工夫は時に聞く者をはっとさせるのではないでしょうか? 特にラブソングの類はそうですね。二人の軌跡を度の視点から綴るのかは、その手の歌を作る時の最初の命題のひとつになるでしょう。そういった観点からも、音楽を楽しんでみてもいいかもしれませんね。

それでは、また来週もこの時間にお会いしましょう。本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

作者よりお知らせ

当コラムでは、内容向上などの参考とするため、読者アンケートを行っております。ぜひとも感想をおきかせいただければと思っておりますので、以下のURLより回答をよろしくお願いいたします。所要時間は1~2分程度です。

https://docs.google.com/forms/d/1oyWzQmlP1xmSZ_x4uGCZjOHnx29GuFG_OD3jAr0fzA0

このコラムで紹介した楽曲のプレイリストを用意しました。LINE MUSICで聴くことができます。以下のURLからアクセスしてください。次回以降の紹介曲についても順次公開していきますのでよろしくお願いします。

https://music.line.me/webapp/playlist/upi7nLrdtfvhxjzl_GXu9zYQaUd_BLXPXHlL?myAlbumIf=true

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村尾 佳祐

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