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コラム

「パステルカラーの季節」㊦

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先週からお送りしております、粋web限定小説「パステルカラーの季節」。

こちらは㊦となっております。先週公開の㊤をまだ読んでいないという方はそちらを先にお読みすることをオススメします!

それでは、㊦の始まりです。今回も最後までお楽しみくださいね。

◇   ◇   ◇

名手桂馬:息もできない

夏帆がイタリアに飛んでから最初の記事チェックの日が来た。今回、俺は野球部の遠征試合のルポルタージュの担当。晴菜大は嬰谷大のエース・土屋にノーヒットノーランを食らう完敗だったが、記事の方は我ながらうまく書けたし、特に荒れることもなくチェックを切り抜けた。それゆえに他の記者の動向に目が行くのだが、中でもあの二人の記事チェックはちょっとしたスペクタクルになった。

モーちゃんは今回、心理学部の香月教授が主催したワークショップのルポルタージュを任されていた。決して稚拙な内容だったわけではないが、どこか文章に元気がなかったのだ。心なしか目もいつもより死んで見える。他の記者も違和感に気が付いてはいるものの、その根源はわかっていないようだった…ただ1人、夏帆を除いて。ドライブのコメント昨日で参加している夏帆から次々と的確な改善案が放たれ、それに舌を巻く他の記者たち…という構図ができていく。

一方、当の夏帆から送られてきたイタリア留学記も、決して拙くはないのだが、どことなく上の空で書いたように感じられた。「どこが?」と聞かれると答えに窮するが、「らしさ」に欠くと見える。他の記者はそうは思っていない…と思ったが、1人だけ気が付いている人がいた。モーちゃんだった。ドライブ機能を使って意見をずけずけと投げている。それを見て、口を突いた言葉は「こいつら…こんなところまで似るかよ」だった。思わず苦笑が漏れた。それと同時に、少し前に二人が大激突したときの記事チェックのことを思い出す。

このチェックが終わったら、ちょっと仕掛けるか…

どうでもいいこと気にするところ 二人よく似てるね

理解されなくても 絶対 妥協しないでね

想像力の中で世界はぐんぐん膨らんでいく

誰よりも今、近くに君を感じているから

「息もできない」(1998年、作詞:坂井泉水、歌唱:ZARD)

そうこうしているうちにチェックが終わった。俺は仕掛けた。

「おーす、モーちゃん。ちょっといいかー?」

折井燃・待田夏帆・名手桂馬:負けないで

<Moyuru side>

「今から~、夏帆に電話をかけてみない?」

いつものお気楽口調から発された桂馬の提案に、俺は唾をのんだ。

夏帆がイタリアに飛んでから一応LINEのやり取りはそれなりにしていたが、電話の類はそういえばしたことがなかった。今更どうやって切り出したらいいかわからないし、正直何をしゃべればいいのかも分からなかった。桂馬の申し出がなかったとして、自分から電話を書けたかどうかは疑問だ。

そういう意味で桂馬の提案は決して悪いものではなく、むしろ乗る価値しか感じられないものだった。俺は平静を装って、桂馬に話を振った。

「…いいじゃん。かけるか?電話」

<Natsuho side>

記事チェックが終わったのは正午を回ったころだった。向こうは20時を回ったころだろう。次は空きコマなので、あと2時間ほど暇な時間ができた。どうやって過ごそうか…と考えていた時、私のスマートフォンが鳴った。画面に映し出した相手を見て息をのむ。

「…燃君…!!」

分かりやすく鼓動が早くなっている。チープなラブコメみたいね、と自嘲しつつ、私は通話ボタンに手を伸ばす。一度呼吸を整え、その人差し指で画面を突いた。

「…もしもし、燃君?」

<Keima Side>

グループ通話が始まったが、夏帆の一言目が「もしもし、燃君?」だったのにはガクッと来たというよりも吹いてしまった。俺もいるっての…ていうか、あいつってそんな単純だっけ?いや、違う。となると、どうも俺の予想は間違っていなかったと見える。

あの二人にとって、お互いの存在は相当に大切なんだろう。現に二人は俺をそっちのけで話に花を咲かせていた。声もわかりやすく弾んでいる。ならば…

「あっ、悪い! 1個〆切の課題があるの忘れてたから抜けるわ。じゃ、ごゆっくり~」

と言い残してグループ通話から離脱した。もちろん嘘。

<Moyuru Side>

桂馬が課題忘れてたとか言って離脱したが、恐らく嘘だろうと思った。電話を切る時のあいつの顔が分かりやすくニヤニヤしていたからだ。

きっと俺が夏帆と盛り上がっているのを見計らってのことだろう。明日はあいつにスタバの新作を奢ってやるか…

明日はあいつにスタバの新作を奢ってやるか…

<Natsuho Side>

「…元気に、やってる?」

燃君と二人だけになったグループ通話で、改めて問い直してみたが、明らかに元気じゃないような震え声になってしまった。当然のように燃君に「そっちは大丈夫なのかよ」と苦笑気味に突っ込みを入れられる。

「…ちょっと日本が恋しい時もあるけど、まあ元気だよ」これは正直な心境のはずだ。

電話の向こうの燃君は「そかそか」というと、真っすぐな言葉を紡いでくれた。

<Moyuru Side>

「夢を追いかけるために日本を出るって決断を俺は尊重しているよ、今でも」

一度口を突いた本音は、自分でも理解できないくらいのペースで加速する。結局、1分くらい口を突く勢いのままにいろいろ言ってしまった。俺はこんな熱血じみたキャラじゃなかったはずなんだけどな。

せっかくの機会に引かれてしまったかな? とかいろいろ考えたけれど、夏帆の反応を見るに、どうやらそうでもないようだ。その代わり、今度は俺が夏帆の紡ぐ本音に耳を傾ける番が来たようだった。

<Natsuho Side>

「私ね、最近思うことがあるの」

慎重になっているのか大胆になっているのかわからない。ただ、今紡いでいる言葉には裏もレトリックもないことだけはわかっている。そして、私は燃君にこう伝えた。

「私が頑張ろうって思えるのは、燃君がいるからだって」

電話の向こうの燃君は「…ありがとう」とだけ返した。ただ、素っ気なさは感じなかった。

それから、お互いに軽くエールを交換して、私は電話を切った。

何が起きたって ヘッチャラな顔して 「どうにかなるサ」と おどけてみせるの

“今宵は私と一緒に踊りましょう” 今も そんなあなたが好きよ 忘れないで

負けないで もう少し最後まで走り抜けて どんなに離れてても心はそばにいるわ

追いかけて 遥かな夢を…

「負けないで」(1995年、作詞:坂井泉水、歌唱:ZARD)

折井燃:揺れる想い

あの日の電話の後、俺は少しずつ心を整理できるようになり始めた気がする。そのことを、後日桂馬にスタバを奢ったときに伝えたら、あいつは「それは良かったな~」と言って笑ってくれた。

心が整理できたからか、原稿のクオリティも我ながらだいぶ回復してきたように思われる。そればかりか、次の機関誌ではメインライターまで委託されてしまった。これで少しは夏帆に自慢できることができたな…と思っていた時、夏帆から連絡が来た。それを読んだ俺は…反射的にスマホを立ち上げると、カレンダーアプリで週末の予定をチェックした。そして、何も予定が入っていないことを確認すると、激しく安堵した。

次の週末、留学プロジェクトが折り返しに合わせて、夏帆含む全留学生に2週間の一時帰国の猶予が与えられ、それを使って夏帆が帰ってくる。直接逢って伝えたいことがいろいろあったので、おせっかいかもしれないけれど、俺は空港まで会いに行ってみることにした。

そうして訪れた土曜日の昼、空は文字通りの空色だった。滑走路には世界の各地から飛行機が入線しては去っていく。その中に、ローマ発の赤いラインの機体が停泊しているのを見つけたときの高揚感は半端ではなかった。出場ゲートに走る俺。その目に飛び込んできたのは、同じくその目に俺の姿を見つけて駆け寄ってくる夏帆の姿だった。

そして、俺たちは、出発するときと同じように握手を交わした。

「おかえり、夏帆!」

それから、俺たちは澄み渡る青空のもとを歩いて帰路についていた。この頃になると空港にいたときの高揚感も幾分か落ち着き、3か月越しの覚悟も決まっていた。その勢いのままに俺は夏帆の方を向く。

「なあ夏帆、話があるんだけど」

揺れる想い体じゅう感じて このままずっとそばにいたい

青く澄んだあの空のような 君と歩き続けたい in your dream!

「揺れる想い」(1993年、作詞:坂井泉水、歌唱:ZARD)

待田夏帆:君に逢いたくなったら

留学プロジェクトの後半戦に入るまえに、2週間の休暇が与えられ、私は日本に帰国した。

迷いはあったけれど、帰ってきてよかったと思った。久しぶりに家族や大学のみんなと再会できたし、久しぶりに自宅で羽を伸ばせたし、久しぶりに本格的な日本食を味わえた。それに…自分でも信じられなかったんだけど、この帰国中に20年越しの想いが成就した。

私が帰国したその日、燃君は迎えに来てくれた。そして空港から自宅に戻る途中の川原の道で、私は告白を受けたのだ。その川原道は学生時代に通学路だった道。燃君らしいといえば、らしいチョイスだった。そして、その真っすぐな思いを、私は受け入れることに決めたのだった。

まあ、せいぜい今回の滞在は2週間なので、それによってそこまでその後の日々が劇的に変わったとか、そういうものはなかった。燃君との食事はちょこちょこ行ったけれど、それくらいだ。そして、あっという間にイタリアに戻る前夜を迎える。

その日、燃君は私をいつもより少しだけ豪華な店の食事に誘ってくれた。夜景が見える席で料理を楽しみながら、ふと、こんなことを聞きたくなった。

「ねえ、燃君はどうして私のことを好きになってくれたの?」

「ん?そうだなー…」

燃君は照れたように笑いながら頭を掻くと、

「ちょっと考えたけど、1個これ!って絞れるものはないや。ひたむきさとか、ちょっとした気配りとか、ノリの良さとか、頼れるとことか…いろいろあって、気づいたら虜になってた…って、なんで笑うんだよぉ、真面目に答えてんのにー!」

「ふふっ、だって嬉しいんだもん。そういう風に思ってくれたなんて。ありがと、燃!」

…言ってから気が付いた。私、初めて燃君を呼び捨てで呼べた…!!

「やめろよー、俺まで真っ赤になっちまう」

気づいていない様子の燃君を前に、私は口角がぐぐっと上がるのを感じた。

それから、私たちは家の前で握手と抱擁を交わして別れた。

明日から、また異国での研鑽の日々が始まる。

君に逢いたくなったら その日まで頑張る自分でいたい

これが最初で最後の恋になればいいなと思う

青く暮れかけた街並み また思い切り騒ごうね

「君に逢いたくなったら」(1997年、作詞:坂井泉水、歌唱:ZARD)

―パステルカラーの季節 完―

☆この物語はフィクションです☆

#サヨナラは15年経ってもこの胸に居ます

あとがきにかえて

一兵卒の稚拙な小説に最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました!

こいつ、気障を気取ってんな~って、鼻で笑っといて下さい!(笑)

ご察しの方も多いと思われますが、この文章は、15年前の今日(=5月27日)に向けて綴られた内容となっております。筆者は15年前の今日はまだ小学生でしたが、童心ながらに衝撃的な一日になりましたし、あとから考えると、あの日は日本の音楽界の大きな変換点の1つだったのかもしれないな…と思います。それから15年、こういうささやかな形ではありますが、この小説をあの日に捧げようと思います。

最後に1つだけ番宣をさせてください!

この小説の筆者は、この粋webにて、毎週金曜日19時に「THE・今夜も音楽三昧」という音楽評論を執筆しております。次回は6月3日(金)に公開予定となっておりますので、よろしければ是非そちらもご覧下さい!

最新回の「THE・今夜も音楽三昧」はこちらからどうぞ!

それでは、またどこかでお会いしましょう~。

P.S. この小説の3人の登場人物たちの名前、実はちゃんと名前に意味があります。それは何でしょう? 暇だったら考えてみてくださいね~。以下、50音順敬称略です。

・折井燃(おれい・もゆる) ・名手 桂馬(なで・けいま) ・待田 夏帆(まちだ・なつほ)

それから、もしよろしければ感想を教えてくれると嬉しいです!

教えてくださる親切な方は、こちらからどうぞ!

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村尾 佳祐

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