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コラム

【THE・今夜も音楽三昧】#17「超短編集『5月13日、19時』」

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皆様こんばんは。「THE・今夜も音楽三昧」の時間がやってまいりました。今週もよろしくお願いします。

いつものこのコラムでは楽曲をいくつか取り上げてそれについてひたすらコメントをつける…という形式が主流ですが、今週はちょっと趣向を変えて、短編集っぽいテイストでお送りしようと思います。まだ少し涼しさの残る初夏の夜に、ぜひお楽しみいただければと思います。

それでは、最後までお付き合いください。ちなみに、すべてフィクションです。

琴羽@SAPPORO

上司の好意で早くバイトを上がらせてもらえた琴羽は、その足でサプライズを決行した。今日は隆史の誕生日だからだ。

サプライズと言っても大したものではない。本人には事前に伝えずにケーキとプレゼントを持っていくくらいだ。それでもやっぱり緊張する。それに琴羽にとって、これは人生初の「賭け」でもあった。

隆史と出会って2年くらいになるが、彼は感情をあまり表に出すタイプではない。ゲームに熱中しても軽い喧嘩のような状態に陥っても感動ものの映画を観ても、そこまで表情が変わるタイプではなかった。そして今日、琴羽は初めて彼の感情が爆発する瞬間を見られるかどうかを勝手に賭けていたのである。

そして、琴羽はアポなしで隆史の家に赴き、ケーキとプレゼントを手渡した。隆史は「ありがとう」と言ってくれたが表情はいつも通り。しかし、肩が少し震えているように感じたので、琴羽は「…どうしたの?」と聞いてみた。隆史の返事は「何でもないッ」だったが、心なしかさっきよりも肩が震えている気がして、琴羽は思わず微笑を浮かべた。隆史の震える方の奥に見える札幌テレビ塔の青い光が、いつもよりやけに優しく見えた。

シャングリラ 幸せだって叫んでくれよ 時には僕の胸で泣いてくれよ

シャングリラ 幸せだって叫んでくれよ 意地っ張りな君の泣き顔 見せてくれよ

シャングリラ 君を想うと今日も眠れない僕のこと

ダメな人って叱りながら愛してくれ

「シャングリラ」(2006年、作詞:高橋久美子、歌唱:チャットモンチー)

利樹@IWAKI

海沿いに面したイオンモールいわき小名浜。その中にあるスタバのいつもの席、夜の海が見えるいつもの席で、利樹は頭を抱えたい衝動に駆られていた。

いま、利樹の目の前には幼馴染の希がいるのだが、その幼馴染から恋愛相談を振られてしまった。その相手は高校・大学の同級生。利樹も知っているが、はっきり言って「いいヤツ」だ。であればなぜこんな衝動に駆られているんだ…と利樹は一瞬思ったが、よくよく考えれば原因はわかりきっていた。

よく、小さい子供達が「おおきくなったらだれだれとケッコンするんだー」と言ってプロポーズまがいの約束を取り付けることがある。利樹も幼稚園児だった時に希に取り付けられた一人だ。大学生にもなれば「子どもじみた約束だったな」と冷めたことを思う人がだいぶ増えるが、その約束を仕掛けたりしかけられたりした子供の本気度がどれくらいかはわからない。そして、利樹の場合…かなり真に受けていた。

とはいえ、そんな約束ははっきり言ってしまえば場のジョークに等しい。これを切り出したら引かれるかもしれないと思いつつ大学生になってしまったのだ。幸いにも学校はここまで全部望と一緒だったため物理的に離れたことはないが、それでも話を出さないとなれば見切りをつけられても文句は言えないだろう。それに、幼馴染として、希には幸せであってほしいと思うのも事実だ。それでも例の約束は容赦なく頭によぎる。脳内は大混乱だ。

すると希は「…どうしたの?」と心配そうな顔で顔を覗き込む。利樹は一旦哀愁を奥に隠して話をつないだが、本心は結局わからずじまいだった。

好きな人を愛せばいい 君が決めた事だから最後まで信じつづけて

Listen To The Silence! 口に出せない声に耳をすませ

Listen To The Silence! はりさけそうな切なさ 胸に閉じ込めるのさ

「サイレンスがいっぱい」(1985年、作詞:康珍化、歌唱:杉山清貴&OMEGA TRIBE)

柊哉@TOKYO

某・浦安の夢の国での一日を終え、柊哉は高速道路を飛ばしていた。助手席では黒くて丸い第3・第4の耳を頭に生やした春代が「楽しかったねー」なんて言いながら今日の思い出を語っている。

この頃は陽が落ちるのが遅くなったとはいえ、さすがに19時だ。徐々に電灯が付いた建物が増えていく。その様子を見ながら、柊哉の脳裏によぎるのは、親がオーディオでよく聞いていたある歌の一説だった。その歌を後部座席で聞いていた時はまさか自分が運転席でこの歌の世界に迷い込むことになろうとは思っていなかった。柊哉は時の流れを感じた。恨めしくはなかったが、感慨とでも呼ぶべきものが心に残った。

そんなことを思っていると、ふと「あの歌のあの歌詞を実行に移してみたい」という妙な衝動が頭をよぎった。普通ならそういう衝動は理性を以て下してしまうはずだが、なぜか今日はそういう気分にならない。これは神の啓示か?わからないままに、柊哉はそれを実行に移した。

しかし、横の春代から返事はなかった。怒らせてしまったか…と恐る恐る横を向くと、春代はすやすやと眠っていた。柊哉は安どのため息をついたが、それが起こさなくてよかったから安堵しているのか、聞こえなくて済んだから安堵しているのか、自分ではわからなかった。ただ、フロントグラスから見えたどこかの商業施設の旗は溌剌とはためいていた。

「愛してる」って 言っても聞こえない 風が強くて

町の灯がやがて瞬きだす 2人して流星になったみたい

中央フリーウェイ 右に見える競馬場 左はビール工場

この道は まるで滑走路 夜空に続く

「中央フリーウェイ」(1976年、作詞・歌唱:荒井由実)

渚@OSAKA

「只今、京都を通過しました」という東海道新幹線の電光掲示板が和泉の心をときめかせる。車内販売で買った熱いコーヒーをすする。渚はこの日を心待ちにしていた。

この3月まで続いた高校生活は充実していた、と渚は思っている。勉強もそれなりに頑張って第一志望の大学に合格できたし、部活でもタイトルとは縁がなかったけど、吹奏楽部でもともと好きだったフルートをさらに極められた。そして、そのフルートを通じて、悟と結ばれた。

いつでも気負わず、「自然体」という言葉が似合う悟は、阪大を受験し見事合格した。渚の第一志望の大学は地元にあったので離れることにはなったが、遠距離だからこそ電話できる時間は大切にしてきた。そしてこの後、大学生になって初めての二人の再会の刻が迫っていた。

新幹線を降りた渚が悟をホームに見つけるまでに時間はかからなかった。2か月ぶりにみる悟は相変わらず気負ったそぶりを見せずに飄々としている。ただ、関西弁だけは妙に板についているみたいだった。

車で悟の家に向かう途中、渚はいろいろな話を悟にした。悟は曖昧に「へー」とか「せやな」と相槌を返すだけだが、ちゃんと聞いているのを渚は知っているし、別に気にはならなかった。いちいち改まって話を聞いてくれる人はありがたいけれど、ちょっと疲れるからだ。

途中でふと、渚は「うちね…」と話を切り出そうとしてみた。しかし後が続かない。すかさず悟は「どしたん?」と流暢に返し、車内が笑顔に包まれる。笑いながら、この先の人生で大阪という街がどれくらい好きになれるのだろう、と渚は素朴に思った。

万博公園の太陽の塔 ひさびさ見たいなぁ 明日さ、たまにはいいじゃん!

「そやなぁ…」って行くの!?行かないの!?

何度ここへ来てたって大阪弁は上手になれへんし

楽しそうにしてたって貴方以外に連れはおれへんのよ? 近そうでまだ遠い大阪

「大阪LOVER」(作詞:吉田美和、歌唱:Dreams come true)

未和@KUMAMOTO

未和は熊本駅近くのベンチで座って、誠矢を待っていた。今日はこれから二人で食事だ。

待ち合わせとなると張り切り、相手が明らかにまだ来ていないであろう時間に場所についてしまうというケースは往々にして存在するが、未羽にとってもそれは例外ではなかった。待ち合わせ時間は19時半だが、19時には到着してしまっている。

メールもチェックし終わり、暇ができた未羽はふと空を見上げ、「…え?」と小さく声を上げた。見えた月がクリーム色というよりは青白かったからだ。そんなことはあるのかとGoogle検索に「青い月」と打ち込む。

近年は便利な時代というもので、すぐに結果が出てきた。どうやら月が青く見えるのは大気中の塵の影響らしい。他に、3~5年に1度、満月が1年間に13回起こる時、季節の3回目の月のことを「ブルー・ムーン」と呼ぶことがあるのだそうだ。

調べ終わってスマホから顔を上げてもう一度月を見ると、先ほどよりも心なしか月がきれいに見えた。それに見入ってしまった未羽は、後ろから自分が呼ばれていることに気づけなかった。

「ワッ!!」痺れを切らした呼び人は、未和の背中目掛けて特大の大声を叩きつけた。それに対し、未和はテンプレのような声にならない悲鳴を上げて後ろを振り返った。「待・た・せ・た・な!!」呼び人の正体は、誠矢だった。

「も~~~、やめてよぉ」と未和は頬を膨らませた。それを見た誠矢は「悪かったよ。で?何を考えていたんだ?」と問いを投げる。「ああ、今日の月は青いな~って思ってた」と未和が返すと、誠矢も「…ああ。確かに青いね」と同調してくれた。

暗く長い夜も 朝は来るさ 朝は来るよ 昼も夜も朝も 廻っている ぐるぐる…

太陽と青い月 輝いて眩しい いつまでも いつまでも 私達を照らす

青い海 青い山 輝いて眩しい どこまでも どこまでも 私達を包む 

「太陽と青い月」(1996年、作詞・歌唱:森高千里)

龍磨@NAGOYA

いつもならば大勢の20代で賑わう大学も、さすがに5時間目を過ぎれば人の数はまばらになる。龍磨がいる図書館も、一部の熱心な学生たちを除けば人はいなくなっていた。龍磨も、本心を行ってしまえばすぐにでも帰りたかったが、3日後の社会学の講義で2回目の小テストがあることを考えると、帰るに帰れなかった。

一緒に講義を受けていた友達は「『小』テストなだけあって初歩的な内容ばっかりで助かったぜ」などと抜かしていたが、この手の分野があまり得意ではない龍磨にとっては普通に難問揃いに思えた。このままでは8月に「F」という名の非常通告が待っているのは想像に難くない。しかもこの講義は、龍磨がいる法学部では必須科目だ。落とそうものなら留年が轟音を立てて迫ってくる。とにかく、龍磨は焦っていた。

とりあえず教科書の復習問題を解いてみる。正答率は8割弱と言ったところか。これくらいは10割撮れていないと本番は厳しいのだろう…と思い、ため息をついたとき、龍磨に声をかける人がいた。

「あれ? 龍磨じゃん。どうしたの?こんな時間に」

龍磨が振り返ると、そこにいたのは侑芽だった。高校時代のクラスメイトで、同じ大学の文学部に通っている。大学でも時折あっては雑談を交わす仲だった。少なくとも相手が侑芽であれば、強がる道理はない。「しあさってがテストなんだよ…正直ちんぷんかんぷんなのに」と、バカ正直に私大を話した。すると侑芽は、「ねえねえ、ちょっと外で話さない?」と誘ってきた。

それから龍磨と侑芽は、10分ほど、図書館の前のベンチで他愛もない話に花を咲かせた。そして龍磨が図書館に戻り、侑芽が駅に向かう時、侑芽は龍磨の眼を除き込むと「龍磨なら大丈夫だって!いつもみたいに自信も元気も満々でやってみなよ」と笑顔で言い、「根を詰めるのもほどほどにね~」と、手をひらひらさせながら去っていった。

「自身も元気も満々、か…」と呟きながら、次の復習問題を解いてみた。結果は、その日初の満点だった。さっき、侑芽が力を与えてくれたのかもしれないな、と龍磨は思った。根拠のない自信が、持っているシャープペンに伝わっていく気がした。

見つめられてドキドキ 必ずパスするから

どんなテストも平気! one more chance!

夢見るだけじゃ続かない! 宝物にしてみせるさ 世界で一番好きな君の笑顔

時間になんか負けないで パラシューター 追いかけてゆこう、二人だけの国へ

「パラシューター」(1997年、作詞:小林和子、歌唱:Folder)

おわりに

というわけで、本日はちょっといつもと違うテイストでお送りいたしました。ちなみに、6篇全て、主役のキャラクター(タイトルに名前が書いてある方の人)の名前には由来があります。暇な人は考えてみてもいいかもしれませんね。

さて、来週(20日)と再来週(27日)の「THE・今夜も音楽三昧」なんですが、2回ほどお休みをいただきたいと思います。その代わりに、来週と再来週の金曜19時には、特別企画として「粋Web限定小説『パステルカラーの季節』」を上下でお届けいたします!

イメージとしては、今回お送りした短編のもっと長い感じでしょうか? 音楽系の内容も随所に取り入れて制作しております(もちろん、そこのところが疎い方にも楽しんでいただけるようにしております)ので、ぜひお読みください!

作者よりお知らせ

当コラムでは、内容向上などの参考とするため、読者アンケートを行っております。ぜひとも感想をおきかせいただければと思っておりますので、以下のURLより回答をよろしくお願いいたします。所要時間は1~2分程度です。

https://docs.google.com/forms/d/1oyWzQmlP1xmSZ_x4uGCZjOHnx29GuFG_OD3jAr0fzA0

このコラムで紹介した楽曲のプレイリストを用意しました。LINE MUSICで聴くことができます。以下のURLからアクセスしてください。次回以降の紹介曲についても順次公開していきますのでよろしくお願いします。

https://music.line.me/webapp/playlist/upi7nLrdtfvhxjzl_GXu9zYQaUd_BLXPXHlL?myAlbumIf=true

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村尾 佳祐

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