
皆様こんばんは。変則日程につき今週は土曜日にお送りしております「THE・今夜も音楽三昧」のお時間です。今週もよろしくお願いします。
さて、4月になりました。新大学生の皆様、入学おめでとうございます! 桜もあちこちで見ごろを迎え、万感の大学生デビュー!!という感じではないでしょうか。そこで今回は、「デビュー作」をテーマにしたお話をしようと思います。テーマの幅が広いため来週も含めた前後編でお送りします。前編となる今回は、提供曲(歌手と作者が別の作品)を中心に見ていきます。
それでは、今週も最後までお付き合いくださいね~。
必勝方程式!「松本・筒美」
今日は少し昔の話からしようと思います。
一昔前の音楽を語るうえで「松本・筒美」のゴールデンコンビの名前は避けては通れないでしょう。「はっぴいえんど」のメンバーとして一世を風靡した松本隆の詞に筒美京平が曲をつけた楽曲群の数々は日本中でブームを巻き起こしました。2年前に筒美が世を去った際には多くの特番が編成され、その生涯に多くの同業者やアーティストが言及するなど、今なお絶大な影響力を誇ります。
そんな彼らは新人のデビュー曲も多く手がけています。そのなかから2曲をご紹介しましょう。
ひとり 雨だれは淋しすぎて あなた 呼びだしたりしてみたの
ふたりに傘がひとつ 冬の街をはしゃぐ風のように
「雨だれ」(1974年、作詞:松本隆、歌唱:太田裕美)
まずは太田裕美に提供された「雨だれ」。当時はいわゆる「アイドル歌謡」の黎明期で、このコンビもその手の楽曲をかなり得意としていましたが、この「雨だれ」はそれとは少しばかり違う風情の作品。どちらかというと演歌に近い進行に加え当時のポップスではあまり見ない6/8拍子を採用、そして感情を爆発させる…というよりは奥ゆかしさにスポットライトを当てた詞、など、当時の他の歌との差別化を図ったと思われるポイントがいくつかあります。この曲で注目を集めた太田は翌年の暮れに出した「木綿のハンカチーフ」の成功で一躍ブレイクを果たすことになりました。
午前三時の 東京湾は 港の店の ライトでゆれる
誘うあなたは 奥のカウンター まるで人生 飲み干すように
にがい瞳をして ブランデーあけた
「東京ららばい」(1978年、作詞:松本隆、歌唱:中原理恵)
続いて紹介するのは中原理恵に提供された「東京ららばい」。こちらも詞・曲ともに様々な工夫が感じ取れる作品です。詞についてはサビとそれ以外で視点人物を明確に書き分け(サビは語り手に語らせ、それ以外の部分は客観描写に徹している)、当時はまだ珍しかった「当て字」の使用(例えば上記の「東京湾」のよみは「トーキョーベイ」)を行うなど、「雨だれ」とはまた別の、大人っぽさが漂うものになっています。曲については出だしの聞き手を引き込むギターソロや、4の倍数小節以外で構成されたパートの多さによる独特な構成に特徴があり、都会特有の疾走感を味わえる仕上がりになっています。この作品で、中原は日本レコード大賞の新人賞を掴むなど飛躍の足掛かりを作ることに成功しました。
これら以外にも、当コラムの#11で取り上げた「卒業」(→斎藤由貴、1985年)や「スニーカーぶる~す」(→近藤真彦、1980年)など、この黄金コンビはインパクトに残りやすいデビュー曲を数多く生み出し、多くの歌手の飛躍の契機づけに成功、今なお名コンビとして邦楽界に名を轟かせることとなったのです。

ようだ。現代では、少なくとも煙草を駄菓子のココアシガレットに変えた方がいいだろう…
売れっ子歌手の腕が光る!
今も時折見られる話ですが、80年代や90年代には売れっ子の歌手が新たにデビューする歌手のために作詞や作曲を行うというケースが多々ありました。例えば、ローラースケートを用いたパフォーマンスを最初に行った伝説のアイドルユニット・光GENJIのデビュー作(STAR LIGHT、1987年)は「はじまりはいつも雨」などで知られる飛鳥涼が作詞・作曲を担当していますし、後にアメリカでも絶大な支持を集めたPUFFYのデビュー作(アジアの純真・1996年)は作詞を「少年時代」などで知られる井上陽水、作曲をロックバンド・ユニコーンのボーカルである奥田民生が担当しています。そういった大物アーティストたちのバックアップを受けて何人もの新人がデビューしていったのです。ここからは、そんな「歌手提供のデビュー曲」をいくつか見ていきましょう。
ないものねだりの恋人探しは 今日でおしまいね あなたがいるから
昨日とまるで違う二人に女神さえ苦笑いしてる
目と目が合ったらMiracle 運命の不思議な兆し
こうして辿り着いたのは奇跡 赤い糸で結ばれてたの
「Miracle love」(1991年、作詞:竹内まりや、歌唱:牧瀬里穂)
平成最初期の映画界で大物新人として注目を集めていた牧瀬里穂が1991年に歌手活動を始めたとき、そのデビュー作を制作したのは竹内まりやでした。決して暗いわけではないのに独特の憂いを伴った浮遊感のあるサウンドと囁くような歌唱のコンビネーションが特徴的ですね。歌詞に目をやるとこの手の楽曲では珍しくキラーフレーズのインパクトよりもレトリックを積み重ねる手腕が撮られているのも興味深いポイントです。
幸せになれるよ私となら 未来を誓えるよあなたとなら
二人の心 結んだ赤い糸 ほどけない
「幸せになりたい」(1996年、作詞:広瀬香美、歌唱:内田有紀)
近年は某・絶対に失敗しない医療ドラマで主人公の相棒を演じていることでも有名な内田有紀が歌手デビューを果たした時に歌を作ったのは「ロマンスの神様」などのヒットで知られ、ウィンターソングの女王として今なお根強い支持を誇る広瀬香美でした。声質の違いを理解してか、広瀬自身が歌う楽曲と比較して詞・曲ともに落ち着いた仕上がりになっているのが特徴で、ドラマの中の恋模様ともぴったり合う楽曲になっています。
歌手による楽曲提供の醍醐味は、作る側のアーティストのこれまでとは異なる側面を見ることができることにあるように思われますね。

ちなみに、キャンパスノートは、実は糸綴じを使っていない日本初のノートなんだとか
ギネスに載っちゃいました
本日最後に紹介するのは、ギネスブックにも載っているこちらの作品。
Stay with me. 硝子の少年時代の破片が胸へと突き刺さる
何かが終わってはじまる 雲が切れて僕を照らし出す
「硝子の少年」(1997年、作詞:松本隆、歌唱:Kinki kids)
先述した松本隆がニューミュージックの大物の一角・山下達郎と手を組んだ「硝子の少年」です。Kinki kidsのデビュー曲として作られたのですが、Kinki kidsがギネス記録を持っているという話は、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
彼らが保持しているギネス記録は「デビュー作からの連続チャート初登場首位記録」および「デビューからの連続チャート初登場首位獲得年数」の2つ。今年3月に発売された新曲「高純度Romance」も見事初登場首位を達成し、その記録は前者が44作、後者が26年となっています(記事執筆当時)。
この記録を伸ばし続けているのは彼らがデビュー当初からコンスタントに支持を集め続けているからにほかならず、そういった面でこの「硝子の少年」の功績は大きいと言えるでしょう。同曲はストリングスを巧みに使ったスタイリッシュな曲調が隠喩を効果的に使い洗練さに磨きがかかった詞と絶妙なシナジーを生み出しており、夜の都会の片隅の情景が浮かび上がるような曲となっています。

特徴。彼らの最大のヒット曲「愛されるより愛したい」もどちらかといえばこっちの系譜の歌
おわりに
というわけで、本日は「デビュー曲のおはなし」をお送りしました。来週は後編ということで、歌唱者本人が作ったデビュー曲に関するトピックスをお送りする予定ですので、どうぞお楽しみに。
ちなみに、明後日の午後8時から『粋』ではオンライン説明会が開催されます。明大・南山の新入生はもちろん、新2・3年生もスタッフ募集がありますので興味がある方は是非是非ご参加ください。
それでは、また来週お会いしましょう~。
作者よりお知らせ
当コラムでは、内容向上などの参考とするため、読者アンケートを行っております。ぜひとも感想をおきかせいただければと思っておりますので、以下のURLより回答をよろしくお願いいたします。所要時間は1~2分程度です。
https://docs.google.com/forms/d/1oyWzQmlP1xmSZ_x4uGCZjOHnx29GuFG_OD3jAr0fzA0
このコラムで紹介した楽曲のプレイリストを用意しました。LINE MUSICで聴くことができます。以下のURLからアクセスしてください。次回以降の紹介曲についても順次公開していきますのでよろしくお願いします。
https://music.line.me/webapp/playlist/upi7nLrdtfvhxjzl_GXu9zYQaUd_BLXPXHlL?myAlbumIf=true