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あの日の歌に寄す~春篇~

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Prologue

粋webをご覧の皆様、こんにちは。企画部に所属する名大法学部2年の村尾です。編集者歴は大体半年です。

突然ですが、皆さんは音楽を聴くのが好きですか?自分はかなり好きです。古くは60年代のグループ・サウンズから比較的新しい曲まで幅広く聞きますが、やっぱり少し前の時代の曲の方が好きかもしれません。それ故に、同年代とはあまり話が合わないのが悩みどころですが…(苦笑)

今回は、そんな「ちょっと前の音楽」に思いを馳せる、そんなお話。

SCENE 01:SUMMER SUSPICION

名古屋駅の桜通口を出ると、そこにはカラフルなネオンに彩られた「THE 都会」然とした通りが広がっている。名古屋ですらそれなのだから、東京の夜はどれほど煌びやかな場所なのだろうか? …などと考えながら通りを栄生方面へ進んでいると、音もなく赤い外国車が横を通り過ぎていった。その外国車はウィンカーを出しながら次の交差点で右折し、小径の闇の中へと消えていった。

夜の都会と外国車のマリアージュは、なぜ得も言われぬ格好良さを感じるのだろうか?「SUMMER SUSPICION」で歌われていた風景を彷彿とさせるからだろうか?

ただ言葉もなく走る都会

スモール・ライトだけで夜に飛び込む

「SUMMER SUSPICION」(1983年発売、作詞:康珍化、歌唱:杉山清貴&オメガトライブ)

外国車が一番映えるのは、映画などでド派手にカーチェイスをしている時ではなく、スタイリッシュに宵闇の中を走っているときだと思う。これもシティ・ポップスの影響だろうか?

「SUMMER SUSPICION」に出てくる外国車のドライバーは、愛に悩み葛藤し、迷路へ迷い込む男だったが、あの日名駅の前で見た赤い外国車のドライバーは、どんな思いを胸に夜に飛び込んでいったのだろうか?それは誰も知らない。

名駅の夜は光であふれている。こんな感じのビルが見渡す限りに
立ち並んでいるさまは、月並みの表現ではあるが圧巻の一言だ

SCENE 02:学生街の喫茶店

大学からほど近い喫茶店でのこと。珈琲が運ばれてくるまでの間、周囲を見渡していると、店の奥で熱弁を振るう大学生と思しき男性客に目が行った。2人の仲間と共に何かについて激論を交わしている。

彼らの様子を見ていて、ふと、彼らは卒業して暫くしてから、あんな風に激論を交わした日々のことを思い出すのだろうか? などと考えてみる。 なぜそんなノスタルジックなことを思ったかといえば、ガロの「学生街の喫茶店」の一節が頭をよぎったからだ。

あの時の歌は聞こえない 人の姿も変わったよ 時は流れた

あの頃は愛だとか知らないで サヨナラも言わないで別れたよ 君と…

「学生街の喫茶店」(1972年発売、作詞: 山上路夫、歌唱:ガロ)

この曲では時の流れを憂うような節が至る節に見られる。まるで大学生時代の情熱が今はないと言っているかのようだ。もちろん未来永劫エネルギッシュに生きられればそれがいいが、「将来あんなことが言えるくらいエネルギッシュな大学生活を過ごしてみたい」とも、心の片隅では思う。まずは今に全力投球することだな、と合点しながら、運ばれてきた珈琲に口をつけた。

筆者は珈琲愛飲家。朝から授業の時はやっぱりモーニング・ショットに尽きる。
昨年夏には「こち亀」とのコラボ缶も出ており、いくつかの缶を取ってある

SCENE 03:陽だまり

窓の外では桜が舞い、日差しがポカポカと暖かい。そんな穏やかな春の午後、街を歩いているとある旧友から連絡があった。明日の朝、関西の大学に進学するために愛知を発つのだという。さて、どう返事をするか?

そんなことを思案しながら歩いていると、目の前に大きな建物が現れた。木造のようだがやけに大きく、やや古ぼけた感じが寧ろいい味を出している。 どことなく、アニメ「めぞん一刻」の舞台になっているアパートに似た雰囲気だ。そして、その主題歌のサビが脳裏をよぎる。

ひらひら花びらの舞う春の午後には 祈りを誓いに変えるよ

一番大事なこと 忘れずに 輝いていてほしいよ

「陽だまり」(1987年発売、作詞・歌唱:村下孝蔵)

特に最後の一文には重みがあると思う。歌われている内容は「大切なことだが、忙殺される日々の中では忘れがちになってしまう事」だ。それを思い起こさせてくれるのは作詞者であり歌唱者である村下氏の功といっていいだろう。

やがて、返事の内容が決まった。メッセージアプリを開いて打ち込む。
「自分らしさを忘れずに頑張れよ!」と。

この春、大学構内で見つけた桜の木のうちの1つ。パンデミックのせいか今年は
大学で桜が咲いているのを見て初めて「あ、もう春か」と気づかされた

SCENE 04:rain

週末のある日、私は古本屋にいた。電車通いの我が身にとって、古本屋で売っている1冊100円から手に入る文庫本は、通学の絶好のお供であると共にお財布にも優しい。しかもスマホのバッテリーを減らさずに済む…と至れり尽くせりだ。

本棚を巡り、佐野徹夜の「君は月夜に光り輝く」と森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」をカゴに入れる。最近はミステリーを読みたい気分だったので、東野圭吾の「容疑者Xの献身」と「流星の絆」もカゴに投じる。そうしてレジに向かおうとしたとき、ある本が目に留まった。新海誠の「言の葉の庭」。少し前に公開されたアニメ映画を監督の新海氏が自ら小説化したものだ。迷った末に、これも買うことにした。

「言の葉の庭」は「雨の日」が1つ重大なキーになっている作品なのだが、読み終えた時、ふと「雨の日も悪くないかな?」と感じた。それは新海氏による美しい風景描写の賜物でもあっただろうが、その映画の主題歌によるものも大きかったと思う。

肩が乾いたシャツ 改札を出る頃 君の街じゃもう雨は小降りになる

今日だけが 明日に続いてる こんな風に君とは終われない

「rain」(1988年発売のアルバム「1234」所収、作詞・歌唱:大江千里)

この曲は男性視点の失恋の歌である。妙な明るさでその辛さを誤魔化す感じの歌ではない一方、曲調からはなぜか絶望感を感じない。その絶妙なバランスの中で、映画の美しい描写や登場人物たちの人間模様が反芻し、やがて音楽のフェード・アウトと共に収束していく。そこに痺れるのだ。

天気予報は明日の雨を告げている。これまでとは違う雨の日になりそうだ。

筆者の自室にある本棚。登場した本は全てここに収めてある。
明らかに買うスピード>読むスピードのため、スペース切れが喫緊の課題

SCENE 05:コンサートの夜

先日、高校時代の部活仲間の一人から久しぶりに連絡があった。それを読みながら、当時のことを少しずつ思い出す。

当時私は「放送部」なる部活の一員だった。体験入学などといった学校のイベントで流す動画の撮影や編集をしたり、イベントで使う放送機材の整備をしたりと、何かとイベントに縁がある部活だった。同期は5人。それぞれが他の部活と兼任していたりして全員が顔を合わせることは稀だったが、上手くやっていた。

そんな気心が知れたメンバーと夜まで活動をして門を出る。駅まで全員で他愛もない話をしながら歩いて帰る。ありふれた時間ではあるが、そこから数年経った今思うと、懐かしい思い出だ。このまま明日が来なくてもいいかな―なんて考えた事もあった気がする。それこそあの歌のように。

なぜか淋しくて 帰りたくなくて 声が枯れるまで歌い続けた

友達のことやこれからのことを 心の中で噛みしめていた

あの夜は北風がまだ冷たくて 見上げれば星空が広がっていた

「コンサートの夜」(1992年発売、作詞・歌唱:森高千里)

この歌を知ったのは高校を卒業した後、あるラジオ番組を聞いていた時だった。コンサートというコンサートに行ったことがない私は、この歌を聞くとあの学校帰りを思い出すのだ。

卒業式前日に校舎4階にある教室から撮った写真。高校は高台に
あったので、市街地方面にカメラを向ければ遠くまで写真に映すことができた

SCENE 06:二人のアカボシ

2月初頭のある日、とある事情から関西方面に向かうことになった。最初の予定が早かったため、夜明けよりも早く家を発つ。

伊勢湾岸自動車道を西に進み、三重県境が近づいてくると、助手席からの車窓は工業地帯のそれになる。新日鐵住金の製鉄所の巨大な煙突からは大量の煙が立ち昇り、夜空に消えていく。ここでふとバックミラーを見ると、一つ明るい星が輝くのが見えた。それを見た私の脳裏でキンモクセイの歌の冒頭が流れ出す。発売されたのは2002年だが、シティ・ポップス仕様のサウンドが懐かしい曲だ。

夜明けの街 今はこんなに静かなのに またこれから始まるんだね

眠る埋立地(うみべ)と化学工場の煙突に 星が1つ2つ吸い込まれ

「二人のアカボシ」(2002年発売、作詞:伊藤俊吾、歌唱:キンモクセイ)

そうこうしているうちに車窓はナガシマスパーランドに差し掛かる。徐々に空は色を黒から紺へと変えていき、スチールドラゴンのコースの形が確認できるようになった。歌はこう続く。

朝焼けの水蒸気が隣の空を彩る 懐かしいメロディーは風と共に終わる

「二人のアカボシ」(2002年発売、作詞:伊藤俊吾、歌唱:キンモクセイ)

そして、四日市JCTが迫り、徐々に太陽が昇りはじめる頃、歌は終わりを告げる。

さようなら、街の明かりと月夜と二人のアカボシ

最後の思いは君が振り向く前に話そうか?

「二人のアカボシ」(2002年発売、作詞:伊藤俊吾、歌唱:キンモクセイ)

夜明けの明るいイメージとは不釣り合いな切ない余韻を残して歌が終わる頃、あの明るい星は見えなくなっていた。夜に対していつもは感じないような名残惜しさを感じながら迎えた、不思議な夜明けだった。

「二人のアカボシ」のCDジャケットはインスタントラーメン「チャルメラ」のパッケージを
模したデザインで、発売当時はこれを記念してチャルメラの限定商品が出たんだとか

Epilogue

これを書いているのは4月10日の夕方。あと数日で2年生として最初の授業日を迎える。この1年間はどんな歌との出会いがあるのだろうか?今から楽しみである。

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村尾佳祐

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